- 甘草(カンゾウ)がどんな生薬で、どの漢方薬に含まれているか
- 偽アルドステロン症が起こるメカニズムと現れやすい症状
- リスクの高い患者さんの特徴と現場で使えるスクリーニング手順
「漢方薬だから安全」と思っていませんか?複数の漢方薬を組み合わせると、思わぬ副作用が出ることがあります。今回は、慢性期病院の薬剤師が実際に経験した事例をもとに解説します。
甘草(カンゾウ)ってどんな生薬?
甘草は文字通り噛むと甘みのある草で、東洋・西洋問わず紀元前から薬として使われてきた生薬です。鎮咳・去痰・健胃・抗炎症・鎮痛などの作用をもちます。
身近なところだと、ドラッグストアで買える市販薬(葛根湯・小青竜湯など)にも含まれています。患者さんが「病院の薬のほかに市販の漢方も飲んでいる」というケースは意外と多いです。
院内でよく処方されている甘草含有漢方薬の例:芍薬甘草湯 / 抑肝散 / 葛根湯 / 柴苓湯 / 補中益気湯 / 人参養栄湯 / 小青竜湯
なぜ問題になるの? 偽アルドステロン症とは
甘草を含む漢方薬を複数種類・長期間服用すると、「偽アルドステロン症(ぎ-あるどすてろんしょう)」という副作用が起こることがあります。
身近なところだと、ドラッグストアで買える市販薬(葛根湯・小青竜湯など)にも含まれています。患者さんが「病院の薬のほかに市販の漢方も飲んでいる」というケースは意外と多いです。
🔬 なぜ甘草でこの症状が起きるの?(作用機序)
甘草の主成分であるグリチルリチン酸が腸管で加水分解されて生成されるグリチルレチン酸が原因です。この物質が、腎臓でコルチゾールを不活化する酵素(11β-HSD2)を阻害します。
その結果、コルチゾールが蓄積してアルドステロン受容体に作用し、ナトリウム貯留・カリウム排泄促進が起こります。これが「アルドステロンは正常値なのにアルドステロン過剰のような状態」=偽アルドステロン症と呼ばれる理由です。
現れやすい症状
- 要注意血圧上昇・浮腫・体重増加
- 要注意手足のしびれ・脱力感・倦怠感(低カリウム血症による)
- 要注意頭痛・口渇・食欲不振
- 重篤高度な低カリウム血症による不整脈(発見が遅れた場合)
リスクが上がる患者さん
👤 患者特性
- 高齢者・低体重・低身長(体内の分布容積が小さく影響を受けやすい)
🏥 基礎疾患
- 腎機能低下(グリチルレチン酸の排泄遅延)
- 高血圧・低カリウム血症・低アルブミン血症・便秘
💊 併用薬(特に注意)
- 利尿薬(ループ系・サイアザイド系):カリウムを尿中に排泄 → 低K血症が悪化
- インスリン製剤:カリウムを細胞内に移動させる → 血中K低下
利尿薬はカリウムを尿中に排泄し、インスリンはカリウムを細胞内に移動させます。どちらも血中カリウムを下げる方向にはたらくため、甘草との組み合わせで低カリウム血症が悪化しやすくなります。
発見したら? 治療の流れ
✅ STEP 1:原因漢方薬の服用を中止
中止後、数週間で症状の改善・カリウム値の上昇がみられることが多いです。まず「どの漢方薬が甘草を含んでいるか」を特定して中止を検討します。
⚠️ STEP 2:回復が遷延する場合
カリウム製剤や抗アルドステロン薬(スピロノラクトン)を投与します。スピロノラクトンはアルドステロン受容体を競合的に遮断し、ナトリウム再吸収とカリウム排泄を抑制します。
🚨 STEP 3:緊急時(重篤な低カリウム血症)
カリウム製剤の点滴を実施。濃度・速度・1日量を厳守し、必要に応じてICU等でのモニタリング下で投与します。急速補正は心停止のリスクがあるため注意が必要です。
チェックリスト:現場ですぐ使えるスクリーニング
| 確認項目 | ポイント |
|---|---|
| 年齢・体重・腎機能 | 高齢・低体重・eGFR低下は特にリスク大 |
| 既往歴 | 高血圧・低カリウム・筋疾患の有無を確認 |
| 併用薬 | 利尿薬・インスリン製剤との組み合わせに注意 |
| 甘草の総含有量 | 複数の漢方薬を処方する場合は1日量を合算して確認 |
| 市販薬の使用 | 患者さんが自己購入している可能性も忘れずに聴取 |
定期モニタリングの目安
| 時期 | 主な確認内容 | 頻度の目安 |
|---|---|---|
| 開始〜4週間 | 血液検査(K・Na値)・血圧 | 1〜2週ごと |
| 5週間以降 | 継続的な血液検査・症状確認 | 1ヶ月ごと |
| 症状出現時 | 追加検査・迅速対応 | 速やかに |
まとめ
漢方薬は「自然由来だから安全」ではありません。甘草を含む漢方薬を複数・長期服用する患者さんには、定期的な電解質チェックと症状観察が大切です。特に高齢者や腎機能低下患者では早期発見が重要です。疑わしいサインを見つけたら、まず服薬の見直しと医師への報告を検討しましょう。


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