近年、医療分野でも生成AIの活用が一気に広がっている。
今回の学会でも「生成AIを用いた業務効率化」「質の均質化」といった発表が目立っていた。
NST(栄養サポートチーム)の現場にいる立場として、正直に感じたのはこうだ。
栄養管理にAIは本当に使えるのか?
そしてもう一つ。
どう使えば、安全で、現実的なのか?
現場でよくある「任せるよ」問題
日々の業務の中で、こんな会話を耳にすることがある。
- 「メインの診療で手一杯だから、内科的な栄養管理は任せるよ」
- 「細かい栄養評価までは調べる時間がない」
これは決して怠慢ではない。
医療現場は常にリソース不足で、それぞれが自分の専門領域で精一杯なのが現実だ。
しかしその結果、栄養管理の質が個人の経験値に依存してしまう場面もある。
だからこそ僕は考えた。
AIは“判断を代替する存在”ではなく、“思考を整理する道具”として使えないか?
生成AIをそのまま使うのは危険
医療分野において、AIが自動で判断を下すことには大きな問題がある。
- 法的責任は医療従事者が負う
- バイアスや誤情報のリスクがある
- 患者への説明責任が必要
生成AIに「この患者にはこの輸液を」と自動決定させるのは、現実的ではない。
そこで有効なのが RAG(Retrieval-Augmented Generation)構成 だ。
RAG+人の確認という現実解
RAGとは、あらかじめ用意した信頼できる資料を検索し、その内容を根拠に文章を生成する仕組みである。
例えば、
- 院内のNSTマニュアル
- 疾患別食の基準
- 採用輸液・経腸栄養レジメン
- 切替プロトコール
これらをデータベース化しておく。
そして患者背景(年齢、腎機能、摂取率、病態など)を入力すると、
- 該当ガイドラインの抜粋
- 目標エネルギー・タンパク質量の候補
- 経口・経腸・静脈栄養の検討順序
- 要確認ポイント
を整理して提示する。
重要なのは、
AIが最終決定をしないこと。
AIはあくまで「候補を提示する」。
最終判断は医師・管理栄養士・薬剤師が行う。
これならば、法的にも倫理的にも現実的な使い方と言える。
何が効率化されるのか?
効率化とは、単なる時短ではない。
- 抜け漏れの防止
- 経験差による質のばらつきの縮小
- 新人でも一定水準に到達できる仕組み
例えば、
- 「摂取率40%が3日持続している」
- 「eGFRが低下している」
- 「水分制限がある」
こうした情報をもとに、プロトコールに沿った候補を自動整理できれば、
カンファレンスの質は確実に底上げされる。
これは“判断の代替”ではなく、判断のチェックリスト化である。
導入に必要な視点
もちろん、課題もある。
- 個人情報の管理(院内サーバー・閉鎖環境必須)
- AI利用ガバナンスの整備
- スタッフ教育(AIを鵜呑みにしない文化)
ツールがあるだけでは意味がない。
どう使うかの設計こそが重要だ。
個人的な挑戦
今回の学会を通じて、僕は思った。
院内ガイドラインや採用輸液、病院食のデータを使い、
簡易版RAG構成を“遊び感覚”で試してみたい。
もちろん実症例は使わない。
匿名化・架空症例で安全に検証する。
未来のNSTはどう進化するのか。
AIは敵ではなく、設計次第で強力な補助者になるかもしれない。
栄養管理の本質は、人が責任を持って判断することにある。
その前段階を整える道具として、生成AI×RAGは十分に可能性がある。
効率化と質の均質化。
その両立を、これからも現場目線で考えていきたい。



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