― カルバマゼピンが低Naを起こす理由を整理する ―
低ナトリウム血症は、臨床現場で頻繁に遭遇する電解質異常の一つです。
その中でも薬剤性低ナトリウム血症は、原因に気づかれにくく、対応が遅れると症状を悪化させることがあります。
今回は、薬剤性低ナトリウム血症の全体像を整理し、特にカルバマゼピンによる低ナトリウム血症の機序について解説します。
薬剤性低ナトリウム血症を起こす主な薬剤
薬剤性低ナトリウム血症は、多くの場合
抗利尿ホルモン(ADH:バソプレシン)
との関係で説明できます。
① 視床下部でのADH産生増加
- 三環系抗うつ薬
- SSRI
- MAO阻害薬
- 抗精神病薬(フェノチアジン系、ブチロフェノン系)
- 抗てんかん薬(カルバマゼピン、バルプロ酸)
- 抗悪性腫瘍薬・免疫抑制薬
(ビンクリスチン、シスプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド静注など) - モルヒネ など
② 腎髄質でのADH作用増強
- 抗てんかん薬(カルバマゼピン、ラモトリギン)
- 糖尿病治療薬(クロルプロパミド、トルブタミド)
- シクロホスファミド静注
- NSAIDs
③ ADH分泌閾値の低下
- カルバマゼピン
④ 尿希釈部での希釈尿生成障害+ADH産生刺激
- サイアザイド系利尿薬
- インダパミド
- ループ利尿薬
⑤ その他
- ACE阻害薬
- 麻薬(MDMA、アンフェタミン)
- ST合剤
- 免疫グロブリン製剤
- PPI
- アミオダロン
- テオフィリン
なぜカルバマゼピンは低ナトリウム血症を起こすのか?
カルバマゼピンは、抗てんかん薬・三叉神経痛治療薬として広く使用されている一方、
薬剤性低ナトリウム血症の代表例としても知られています。
結論
カルバマゼピンによる低ナトリウム血症の本態は、
抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)様作用です。
カルバマゼピンによる低Naの主な機序
① ADH分泌の促進(中枢性)
- 視床下部〜下垂体系に作用
- 血漿浸透圧が低いにもかかわらず、ADH分泌が抑制されない
- SIADHの病態そのもの
② 腎でのADH作用増強(末梢性)
- 腎集合管のV2受容体感受性を高める
- 少量のADHでも強く作用
- 水チャネル(アクアポリン2)の発現増加
③ ADH分泌閾値の低下(カルバマゼピンの特徴)
通常は、血漿浸透圧が低下するとADH分泌は抑制されます。
しかしカルバマゼピン使用時には、
低浸透圧状態でもADH分泌が続く
という状態が起こります。
これが、カルバマゼピンが特に低ナトリウム血症を起こしやすい理由です。
低ナトリウム血症は「Naが減った」のではない
カルバマゼピンによる低Na血症は、
- ナトリウムが体から失われた
のではなく、 - 水が過剰に体内に貯留した結果、Naが希釈された
という点が重要です。
👉 希釈性低ナトリウム血症
RSWS(腎性Na喪失)との関係
カルバマゼピンによる腎性Na喪失(RSWS)の報告もありますが、
臨床的には主因ではなく、
多くの場合はSIADH型低ナトリウム血症として対応します。
高齢者で特に注意が必要な理由
- 腎の希釈能低下
- 体水分量の変動が大きい
- SSRI・利尿薬などの併用
- 軽度低Naでも症状が出やすい
高齢者では、Na 130mEq/L台でも意識障害や転倒につながることがあります。
NST・薬剤師としての実践ポイント
低Naを見たら確認したいこと
- カルバマゼピンの使用有無
- 投与開始・増量のタイミング
- 併用薬(SSRI、利尿薬、NSAIDsなど)
対応の基本
- 軽度・無症候
→ 水分制限+経過観察 - 中等度以上・症状あり
→ カルバマゼピン減量または中止を検討 - 「食塩を増やす」だけでは不十分
→ 原因は水分過剰
まとめ
- 薬剤性低ナトリウム血症はADH異常が中心
- カルバマゼピンはSIADH様作用を起こす代表薬
- 本態は「水の貯留による希釈」
- 高齢者・併用薬では特に注意が必要


