「mTOR(エムトア)」は、mechanistic target of rapamycin の略で、細胞の成長や代謝をコントロールする酵素(タンパク質キナーゼ)の一種です。栄養やエネルギーの状態、ホルモンなどの情報を受け取って、細胞に「今は成長する?それとも分解して節約する?」と指示を出す“司令塔”のような存在です。
mTORの主な役割
- 栄養が豊富なとき
アミノ酸やインスリンが十分あるとmTORが活性化し、細胞は「合成モード」へ。タンパク質を作って成長や増殖が進みます。
一方で、**オートファジー(細胞内の不要なたんぱく質を分解・再利用する仕組み)**はストップします。 - 飢餓やストレスのとき
mTORの働きが弱まり、細胞は「節約モード」へ。オートファジーがオンになり、細胞の中の不要物を分解してエネルギーや材料を確保します。
つまり、mTORがオン=オートファジーはオフ、mTORがオフ=オートファジーはオンという切り替えで、細胞の健康バランスを保っています。
mTORを動かす栄養素
mTORのスイッチは、栄養の種類によって大きく変わります。
- アミノ酸(特にロイシンやアルギニン)
強力にmTORを活性化。筋肉合成や細胞の成長に直結。 - インスリンやIGF-1(成長因子)
食後のインスリン分泌によってmTORが刺激され、タンパク質合成が促進されます。 - グルコース(糖)
エネルギーが十分あることを知らせ、mTORを安定的に働かせます。 - 逆に栄養不足のとき
AMPKという酵素が働いてmTORを抑制、オートファジーが起動します。
まとめ
mTORは細胞の「栄養センサー兼コントローラー」です。
- 栄養が豊富 → mTORがオン → 成長&合成を促進、オートファジーはストップ。
- 栄養不足 → mTORがオフ → オートファジー起動、分解&リサイクルで生き延びる。
この切り替えが、細胞の健康や長寿、さらには筋肉合成や代謝調整に大きく関わっています。